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ハープ・セラピー

書店で『ハープ・セラピー』という本をみつけ、衝動買いしたのは昨年の初めごろだった。
ハープにできることは、ダルシマーでもできるのではないか、という興味からだったが、他にも音楽仲間にその本を読んだという人がいて、ああやっぱりと思ったものだ。

ところが実際その本を読んでみると、ハープ・セラピーとは、かなり重症な患者さんのベッドサイドで、即興的に音楽を演奏するものだった。そして本の内容は、進むにつれて実践のためのガイドになっていく。そうではなくて、音が身体にどう影響するのかを知りたいのだと思いなおし、『音はなぜ癒すのか』とか、『モーツァルトを科学する』、『音楽で脳はここまで再生する』、『オルゴールは脳に効く!』などを読んでみた。その過程の中でシュタイナーも出てきたし、人との会話の中では、子供の頃ギターを鳴らすと、音によって身体の響く場所が違ったという体験を話してくれる人もいた。音の波動は確かに身体に影響を与える。

そういう興味で進んできていたから、『ハープ・セラピー』の翻訳者である神藤雅子さんによる講演会があると紹介されたときには、メキシコに行くはずの前日であったにもかかわらず、早々と参加申込みをした。主催はグリーフ・カウンセリング・センター。グリーフとは辞書で引けば喪失・死別などによる深い苦悩・悲しみ、悲嘆という訳語になるが、愛する人をなくしたときの衝撃、喪失の大きさや環境の激変に対する動揺などのすべての反応を表す言葉。共催がグッドグリーフ・ネットワークで、こちらは配偶者との死別体験者が、安心して悲しみの気持ちを語ることのできる場を作ろうと立ち上げたボランティア・グループ。確かにこういうことを考えている人たちは、ハープ・セラピーと近いところにいる。

そして神藤さんのお話は、とても聞きやすく、分かりやすいものだった。これまでに何度も講演会というものに参加してきたが、内容の良い本を書く人なのに、講演は下手ということがしばしばあった。それは単純に発声が悪いということもあったが、話し言葉にするのが下手と言う人もいたし、アウトラインの準備しかなく横道にそれてしまってなかなか戻れない人もいたし、読み上げ原稿の読み方が下手というものもあった。神藤さんはおそらく読み上げ原稿を用意されていたのだろう。それが、それと感じさせないほどこなれた「話し」になっていたので、指定された時間内で必要なことを話すには、読み上げ原稿も必要なのだと考えを改めざるを得ないほどだった。

ハープ・セラピーとは本来、ひとりの人のために、療法的な音楽を、生で演奏する。だから、講演会場でその実演をすることはできない(音楽大学で行なわれる、公開レッスンのような形にするのが一番近いだろうが、病んでいる人を講演会場に連れて来ることはできないので、本来の対象者より元気な人に対するサンプルということになるだろう)。そこで、そういうお断りがあったうえでの模擬演奏が20分ほどあったが、この演奏を聞けたことも、この講演会へ参加してよかったと思う理由のひとつだ。

部屋の照明が落とされ、目を閉じてて聞くほうが良いと言われ、さらに、聞き入るよりも音を浴びるだけのほうが良いと勧められる。最初は演奏者を見ていたが、次第に目を閉じたほうが気持ちがよさそうだと感じ、けれど途中、レバー操作をしたのかが気になって目をあける。演奏者はハープ越しに会場の参加者を見ながら即興的に音をつむいでいく。今日は会場の皆さんが元気なので、よく知られた曲も演奏するとのことだったが、そこから即興で音がつながり、調性が変わっていく。これは私のBGM演奏にも取り入れたいと思う要素だった。

興味はあったが、私はこのハープ・セラピーのような特殊な状況下では演奏しないだろう。けれど、こういうことも知った上で、もう少し元気な人たち、どちらかというと、日々の介護に疲れた人たちが1杯のコーヒーを飲みながらくつろぐときのBGMはやってみたいと思う。実際自然館でも、常にというわけではないが、クリスチャンと思われる人がいれば讃美歌を、子供がいれば童謡を、あるいは、こういう世代の人ならオーラ・リーをラブ・ミー・テンダーと聞くだろうかと思いながら、即興的に選曲したりしている。そしてその選曲に関するひらめきを得ることは、とても楽しいのだ。

もう少し、こういう活動の場を広げてもよいのかもしれない。
by yt-aoki | 2009-05-27 01:19 | イベント・コンサート
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