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楽器の改良

日本にオークラウロという楽器がある。尺八にフルートのベーム式キーシステムを取り入れた楽器。考案者である大倉喜七郎のオークラと竪笛のアウロスでオークラウロ。日本の音楽史の中のトピックとしては聞いたことがあったけれど、その楽器が展示され、さらに描かれた楽器の展覧会との併催と知り、出かけた。
(大倉喜七郎と邦楽・美術に視る音色、大倉集古館、9月25日まで)

実は管楽器にはあまり興味がない。何故なのか、打楽器と弦楽器には興味があるが、楽器博物館でも管楽器コーナーはろくに見もせず素通りしてしまう。それなのに「描かれた楽器たち」というサブタイトルの「美術に視る音色」との併催と知り、興味を持った。邦楽もそれほど知らないのだが、昔、日本絵画の中の楽器を記録することに関わっていたという経験がダルシマーへの関心と重なり、江戸時代の絵画の中に揚琴がみつからないだろうかという期待になってしまうのだ。案の定今回も、雅楽器、琵琶、筝、三味線しか見つからなかったが、オークラウロに関する展示は興味深いものだった。

最初に大倉喜七郎という人物の紹介がある。そしてオークラウロが展示され、それを考案するにいたった過程が、雑誌記事で紹介される。特許資料に教則本、オークラウロ作品の公募資料や、講習会・養成所の記事・広告。とても興味深いのだが、根本的なところでの疑問が残る。

尺八にわざわざキーをつけて、本来出しにくかった音を出しやすくする必要があるの?

そう思いながらも、そうしたいと思った時代的な要請はよくわかる。ザルツブルグ式のハックブレット(クロマチック・ダルシマー)が出てきたのと同じ頃なのだ。クロマチックにしないと、他の楽器とのアンサンブルがしにくい。クロマチックでないと、忘れ去られていく。

ハックブレットはその後クロマチック楽器が主流となったが、オークラウロは・・・?

最近ハックブレットの楽譜にある曲を教えてもらい、私自身のダルシマーのレパートリーにした。それを演奏する際、その曲について調べたところ、1753年のタブラチュア(奏法を記した譜)が出典とわかった。1753年の楽譜なら、クロマチックのハックブレットではなく、私のダルシマーに近いはずだ。そう思って2つの楽器の音の配置を考えながら弾いてみると、ダルシマーの方が断然弾きやすい。ダルシマーでは初級、ハックブレットなら中級というくらいの差がある。

ピアノ、ギター、ヴァイオリンあるいはリコーダーといったよく使われる楽器、学校教育にも用いられる楽器を触っているだけではわからないことだが、ダイアトニック(全音階的)楽器の制約を、他の楽器と合わせられない不幸な事と捉えると、クロマチック(半音階的)にすることが楽器の改良だと思うのだろう。けれどそれは、本当に改良と言えるのだろうか? フィンランドのカンテレも20世紀にいたるまで5弦の楽器だったと聞いている。つまり音高の変えられない弦楽器の場合、5種類の音があれば、音楽になったのだ。(ネックがあって音高を変えられる楽器の場合は3弦が多いが、2弦でも成り立つだろう。)

ハンガリーのツィンバロムも、オーケストラと一緒に演奏するために今の形に改良された。今はそれが主流だが、オーケストラと一緒に演奏する必要のないところでは、もっと小さなツィンバロムが使われている。中国の揚琴も音量や音域が改良されているが、昔はタイのキムくらいの大きさだったのだ。

音楽をピアノのような楽器から始めてしまうと、クロマチックであることは必須となる。けれど、そうでなくても音楽はできると知ってしまうと、楽器の改良というのは、もっと別の方向があるのではないかと思う。
by yt-aoki | 2011-08-20 01:30 | 楽器
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