ピアノの祖先?(3)

クリストフォリが初めてピアノを作ったのは1709年と言われていましたが、実際には1700年以前にピアノを設計し、製作していました。1700年に編纂されたメディチ家の楽器目録に「新しい発明によるアルピチェンバロ」が記載されているのです。そしてこのクリストフォリの発明は、1709年に本人に会い、楽器を見て記録したシピオーネ・マッ
フェイにより論文として1711年に公開されます(その時の名前が、音の強弱がつけられる大型のチェンバロ)。さらにそれはドイツ語に翻訳され、1725年に刊行されました。

ドイツでもクリストフォリのようなピアノを作ろうとした人がいました。バッハとも親しかったザクセンの有名なオルガン製作家のゴットフリート・ジルバーマン(1683-1753)です。クリストフォリが新しい楽器をいろいろ考えていたように、ジルバーマンも大型の特殊なクラヴィコードを作って「チェンバル・ダムール」と名づけたりしていました。それにジルバーマンは、パンタレオンを知っていたのです。知っているどころか、一時期、パンタレオンを作っていました。

ジルバーマンがフォルテピアノを初めて作ったのは、1732年だそうです。私は、ドイツでかなり早いに時期ピアノを作ったのがジルバーマンで、彼がパンタレオンの演奏を参考にしたために「ピアノの祖先」という言い方がされたのだと思っていましたが、鍵盤楽器の歴史が解明されるにつれ、別のことがわかってきました。ドイツには、パンタロンと呼ばれる鍵盤楽器が残っているそうなのです。

keyboard pantalonという書き方をしている文献もありますが、日本語にすると鍵盤付きパンタロンでしょうか。これは1730年ごろから1805年くらいまで作られていたようです。グランド型ではなくスクエア・ピアノ、テーブル型の楽器でした。金属弦で、1790年代のピアノに典型的な5オクターブの楽器。むき出しの木のハンマーで音を出し、弦とハンマーの間に布を挟みこむ装置がありるそうです。これは、パンタレオンのガット弦の音を模していると考えられます。

ジルバーマンはピアノを作る際、クリストフォリのハンマー機構を参考にしたと言われていますが、クリストフォリになかったのがダンパーを開放する(今のピアノで言えば、右側のペダルを踏みっぱなしにする)装置でした。当時はまだペダルではなく、手で操作したのだとか。ということは曲の途中で「ダンパーを使わない」状態にするのは難しく、最初からダルシマーのような響きで演奏することを選択できたということです。そしてそれが、ドイツの他の会社にも引き継がれたということは、鍵盤楽器で簡単にダルシマー風の演奏がしたいという要求があったのかもしれません。そしてこの楽器を、大型のパンタレオンではなく、小型のスクエア・ピアノにすることによって、要求に答えたのだろうと思います。

現在と違ってさまざまなピアノが作られた18世紀に、パンタレオンのような演奏ができるパンタロンという鍵盤楽器が作られていた。パンタロンも新開発のピアノの一種ですから、ピアノの祖先はダルシマーという言い方が出てくるのも、仕方のないことなのかもしれませんが、なんとなく腑に落ちないのです。私は世界中のダルシマーがそれぞれの地域に固有の名前を持っているように、パンタレオン・ヘーベンシュトライトの楽器はダルシマーではなくパンタレオンとして区別すべきだと思うのです。
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by yt-aoki | 2012-06-21 17:55 | 歴史 | Comments(0)
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