ピアノの祖先?(結)

これまで集めてきたパンタレオンに関する文献を全部ではないけれど読み直しているうちに、ちょっとした発見がありました。

それは、とあるアメリカの有名音楽雑誌に掲載された論文の中にありました。

クーナウという作曲家が評論家であるマテゾンに宛てた手紙、それはクーナウの死後マテゾンの『クリティカ・ムジカ』という論文集に掲載されたのですが、その中からいかにクーナウがパンタレオンを気に入ったかを紹介した後で、論文の著者は、

この(楽器の)特徴は、小さな音のクラヴィコードに勝り、強弱の自由さに欠けるハープシコードに勝る。パンタロンという、この現代ピアノの重要な祖先は・・・The pantaleon, an important predeccessor of the modern piano,(以下略)

これです。predeccessor of piano ピアノの祖先。

この論文を訳して読んでいたから、この言い回しが広まったのでしょう。誰かが書き、それをまた誰かが書き写し。(以下略の部分は、文章が長くて訳しにくいのですが、この楽器は、強弱によって音楽の表情の豊かさを求める傾向に適したものとなった、といった感じでしょうか。)

雑誌の発行は1969年。パンタレオンに関することは、ドイツ語や英語の音楽辞典以外に入手が難しかったのだと思いますが、こういうキャッチ・コピーのようなものが一人歩きしているという感じがします。

実はヨーロッパのダルシマーが中東に由来する(イランのサントゥールが元)というのも有名な楽器学者クルト・ザックスが1940年に発表した楽器の歴史の本が出典ですが、ドイツのハックブレットやアメリカのダルシマーの研究者からは疑問視されています。私は西洋の楽器について、日本語で読めるものが少ないからだと思っていましたが、アメリカ人が同じことを書いているのは、クルト・ザックスという名があまりに大きいからかもしれません。彼らが言うには、ヨーロッパの方が、図像学的にもテキストとしてもサントゥールより古いものが見つかっているとのこと。サントゥールの研究者からの反論は出てないようです。

20世紀後半の50年の学術研究の進歩は、想像を絶する勢いがあります。昔覚えたことも、時には調べなおす必要があるのかもしれません。そんな柔軟さを持ち続けたいと思います。
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by yt-aoki | 2012-06-21 23:14 | 歴史 | Comments(0)
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