人気ブログランキング | 話題のタグを見る

16世紀のダルシマー

楽器に関する手引書としては最も古い出版物といわれる『ドイツ語による音楽論 Musica getutscht 』は、ハイデルベルク大学で学んだ音楽理論家で、作曲家でもあったゼバスティアン・ヴィルドゥング Sebastian Virdung によるもので、1511年にバーゼルで出版された。この書物の中で著者は、問答形式で楽器の紹介をしているのだが、この中にハックブレット Hackbrett が紹介されている。

16世紀のダルシマー_c0055046_23201718.jpg


弦楽器を彼は、鍵盤を持つもの(クラヴィコードやヴァージナル、ハーディ・ガーディも含む)、フレットを持つもの(リュート、ヴィオールなど)、鍵盤もフレットもないものに分類し、第3のグループにハープ、プサルテリウム、ハックブレットが挙げられている。

この図は1529年、やはりドイツの音楽理論家で作曲家でもあったマルティン・アグリーコラ Martin Agricola により『ドイツの楽器 Musica instrumentalis deudsch 』(1529年出版、何度かの再版の後1545年に改訂出版)の中にコピーされている。彼はマクデブルクのプロテスタント・ラテン語学校で聖歌隊長を務めていた。

16世紀のダルシマー_c0055046_2345172.jpg


ちょっとブリッジがずれているところが面白い。そしてこれは Hackebreth とつづられている。

そしてさらに、ハイデルベルク大学で学び、ルーヴェンやウィーンでも学んだオトマル・ルスツィーニウス Othmar Luscinius の『ムスルジアまたは音楽の実践 Musurgia seu
praxis musicae 』(1536年出版、1518年には上梓されていた)にもコピーされている。ルスツィーニウスは1510年にヴィルドゥングと出会っている。

16世紀のダルシマー_c0055046_044035.jpg


こちらのつづりは Hackbret となっていて、ルスツィーニウスはここに、「他の楽器の邪魔になる騒がしい音がして品がない」というような意味の言葉を書いているらしい。

この後17世紀から18世紀にかけて、ドイツの上流社会はこの楽器を好まなくなっていくようだ。
by yt-aoki | 2011-03-28 00:24 | 歴史
<< 今日の自然館 今月の自然館 >>