2018年 03月 14日 ( 1 )

金属弦のこと

昨年一緒にコンサートをさせていただいた田中麻里さんのアイリッシュ・ハープ教室特別講座「真実のアイリッシュ・ハープ その歴史と音楽」に参加させていただいた。(2018年2月25日レソノサウンド)

講師はアイリッシュ・ハープ奏者であり、研究者、製作者でもある寺本圭佑さん。寺本さんのことは以前から昔の仕事関係の方からお名前を伺っていて、それが最近になってかなりご近所にお住まいと知りSNSでお友達申請させていただいていたがお会いする機会がなく、田中麻里さんの企画する講座があると知り、参加させていただくことにしたのだ。

明治学院大学で音楽学を学ばれ、18世紀以前のアイルランドのハープ音楽研究により芸術学博士号を取得された寺本さんのお話は、展開も例示も心地よく、古巣に帰ったような感じがした。今回は特に金属弦に関する知見を深めていただいたので、金属弦についてのみ報告させていただくが、何故金属弦かというところから話を始めなければならないだろう。

私の組むデュオのひとつSouth Windはフォーク・ハープとハンマー・ダルシマーの2台と紹介しているが、そのハープ名をフォーク・ハープとするまでには逡巡の期間があった。アイリッシュ・ハープ? ケルト・ハープ? レバー・ハープ?
 
さまざまな言い方がある中、アイリッシュ・ハープという言葉が一番使われているように思うが、寺本さんによればアイリッシュ・ハープはもともと金属弦を張り、尖らせた長い爪で演奏し、音高を変えるレバーを持っていない、共鳴胴も1本の木からくりぬいて作る楽器だったそうだ。11世紀ごろに原型が完成したとされる。そして、楽器のすぐそばまで近づかなければ聞こえないほどの「ささやくような音色」の楽器は、音量が大きく派手な演奏を求めるという時代の要請から取り残され18世紀末に廃れてしまう。

20世紀になるとガット弦を張ったアイリッシュ・ハープが登場する。こちらをネオ・アイリッシュ・ハープと言って区別するが、弦はガット、ナイロン、カーボン、演奏は指の腹を使い音高を変えるレバーを持っている。共鳴胴は合理的に板を張り合わせて作っている楽器だ。そして寺本さんがこだわっているのは、古いタイプの金属弦のものなのである。

金属弦が張られたハープの最も古い証拠は、12世紀イングランド国王に仕えた司祭ギラルドゥス・カンブレンシスが1188年に著した『アイルランド地誌』にあるという。

そんなに古い時代から金属弦が楽器に使われていたのかという衝撃。私は漠然と、クラヴィコードと同じ時代と考えていたし、そのクラヴィコードもチェンバロと同じ15世紀と思っていたが、改めて調べてみると、クラヴィコードの前身と考えられるモナコードは1157年にすでに詩の中に表現されていた。

しかしそれ以上に驚いたのが金属の種類に関する話だった。鉄、真鍮は頭の中にあったが、金や銀まで使われていたそうだ。しかもその種類によって性質が違うという。

「鉄の弦」は人を眠らせる音楽、子守歌。
「真鍮の弦」は人を楽しませる音楽、ジグやリール、ホーンパイプなどのダンス音楽。
「銀の弦」は人を悲しませる音楽、ラメント。

あいにく金や銀の弦を奏することはないだろうけれど、「鉄の弦」が人を眠らせるというのは面白い。実は私達のCDで赤ちゃんが眠るだけでなく、犬も眠るという話をよく聞く。なので「運転中はお気をつけください」と冗談でお話しているのだが、昔から「練習していると眠くなる」という仲間がいたのは確かだ。

「演奏を聞いて癒されました」と言ってくださる方があり、音による癒しということをかなり真剣に考えるようになった。最初は楽器の音そのものの効果だろうと思い調べるうち、演奏に込める思いも少しは関係するだろうと思うようになったが、やはり音そのものの力は大きそうだ。それでもやはり演奏するからには、演奏への思いも影響して欲しいと思う。

それにしても、まさかアイリッシュ・ハープに金属弦という共通性があるとは思わず、新発見の有意義なひと時をもつことができた。
田中麻里さん、寺本圭佑さん、ありがとうございました。 

[PR]
by yt-aoki | 2018-03-14 17:50 | 歴史 | Comments(0)